「On」急成長の裏側をクリエイティブディレクターが解剖!売上6000億円突破の新体制が示すアパレルビジネスの未来

スイス発のスポーツブランド「On(オン)」が、共同創業者2名をCEOに据える新体制へと移行するニュースが、アパレル業界に大きな波紋を広げています。2013年にCFOとして入社し、2021年からCEOを務めてきたマーティン・ホフマン氏が退任し、5月1日付でデヴィッド・アレマン氏とキャスパー・コペッティ氏が再びトップに立つとのこと。これは単なる人事異動ではなく、売上高6000億円を突破し、次の成長段階へと進む「On」の、揺るぎない決意と戦略を示唆しています。

私たち「株式会社イーヴイアイ」は、このニュースを単なる経済指標としてではなく、その裏に潜むデザイン、商売、そして業界全体の潮流を読み解く、格好の材料と捉えています。今回は、クリエイティブディレクターである私の視点から、「On」の躍進の秘密と、新体制がアパレルビジネスにもたらす示唆について深掘りしていきましょう。
 

■躍進を支える「On」の多角的な戦略

  1. 「CloudTec」が拓くデザインの進化と機能美

「On」の成功を語る上で、まず外せないのが独自の「CloudTecR(クラウドテック)」技術です。アウトソールに配置された空洞の「クラウドパーツ」は、着地の衝撃を吸収し、その反発力で前方への推進力に変えるという画期的な構造。この機能は、ランナーに「ソフトな着地と爆発的な蹴り出し」という独特のランニング体験を提供します。

しかし、私が注目するのは、この機能性がそのまま唯一無二のデザイン要素になっている点です。独特のソール形状は、従来のランニングシューズとは一線を画す、ミニマルかつ洗練されたモダンな印象を与えます。これは、機能性はもちろんのこと、日常使いでもファッションアイテムとして成立するデザインを求める消費者のニーズに見事に合致しました。

素材使いにおいても、軽量性、通気性、耐久性を高次元で両立させる技術開発に余念がありません。最近では、最先端の製造技術であるLightSpray?(ライトスプレー)工場を稼働させ、革新的なアッパー素材の開発・生産にも注力しています。これは、アパレル デザインの可能性を広げ、単なるプロダクトではなく「体験」をデザインする姿勢の表れと言えるでしょう。

  1. プレミアム戦略とDTCが織りなす商売の勝算

「On」のシューズは、1足130ドルから200ドル(約1万8千円?2万8千円)という比較的高級な価格帯で展開されています。この「プレミアム路線」は、ブランドの品質、革新性、そして独自の世界観への自信の証です。高い原価を厭わず、最高の素材と技術を投入することで、ユーザーに確かな価値を提供し、価格以上の満足感を与えています。

さらに、DTC(Direct-to-Consumer)戦略の強化が、このプレミアム戦略を後押ししています。自社ECサイトや直営店を通じて顧客と直接つながることで、ブランドの世界観を余すことなく伝え、顧客体験を最大化しています。加えて、厳選されたランニング専門店との戦略的パートナーシップにより、専門的なアドバイスと共に製品を届けることで、信頼性と限定性を確立。これにより、高い利益率を確保しつつ、ブランド価値の向上と顧客ロイヤルティの構築に成功しています。

アパレル ECが進化する現代において、単に商品を売るだけでなく、ブランドの哲学やストーリーを共有する場としてECや店舗を活用することは、ビジネス的な勝算を高める上で不可欠な要素と言えるでしょう。

  1. 創業者の帰還とイノベーションの加速

共同創業者であるデヴィッド・アレマン氏とキャスパー・コペッティ氏がCEOに復帰する新体制は、「On」が次の成長フェーズにおいて、ブランドの根幹にある「イノベーション」と「共同創業者のDNA」をさらに強化しようとする強い意思の表れです。

元々、オリンピック選手であったオリヴィエ・ベルンハルド氏を含む3人の創業者が、最高のランニング体験を追求するために立ち上げたブランドです。その原点回帰とも言える体制は、意思決定の迅速化、そして創業者が持つ独自のビジョンと情熱をダイレクトに経営に反映させることを可能にします。

また、CIO(最高イノベーション責任者)を務めてきたスコット・マグワイア氏が社長兼COOに昇格した点も重要です。これにより、技術革新が事業運営の中核に据えられ、より一体化した形で製品開発から市場投入までを推進できる体制が整います。これは、移り変わりの激しいアスレチックフットウェア市場において、常に最先端を走り続けるための「攻め」の布陣と言えるでしょう。

  1. 「On」と「Hoka」から見る競争戦略の明暗

アスレチックフットウェア市場は、ナイキやアディダスといった巨大ブランドが君臨する一方で、「On」や「Hoka One One(ホカオネオネ)」といった新興ブランドが目覚ましい成長を遂げています。

Hoka One Oneもまた、「マキシマリスト」と呼ばれる極厚ソールで、圧倒的なクッション性と快適性を追求し、熱狂的なファンを獲得してきました。2023年には売上高10億ドルを突破するなど、その成長は目を見張るものがあります。しかし、最近ではその成長率に鈍化が見られるという報道もあります。

一方、「On」はHokaとは異なるアプローチで市場を切り拓きました。Hokaが「最大限のクッション」を訴求するのに対し、「On」は「雲の上の走り」という、クッション性と反発性のバランスを追求した独自の体験を提案。また、デザイン面でもHokaのボリューミーなシルエットに対し、「On」は洗練されたミニマルなデザインで差別化を図りました。

この競争から学ぶべきは、単に「快適性」を追求するだけでなく、それをどのような「デザイン」と「体験」で提供するか、そしてどのような「ブランディング」を行うかが、持続的な成長には不可欠であるということです。

 

■アパレル企画に活かす「On」の教訓

私たち「イーヴイアイ」は、アパレル企画・デザインのプロフェッショナルとして、「On」の成功事例から以下の提言をさせていただきます。

1.「語れる」デザインと機能性の融合:
単なるトレンドを追うだけでなく、独自の技術やコンセプトに裏打ちされた「語れる」デザインを生み出すこと。機能美を追求し、それがブランドのアイデンティティとなるようなアパレル デザインを追求すべきです。

2.プレミアム体験の創出とDTCの深化:
製品の品質はもちろん、顧客がブランドと接する全てのタッチポイントで「プレミアムな体験」を提供すること。アパレル ECや店舗を、単なる販売チャネルではなく、ブランドの世界観を伝えるメディアとして捉え、アパレル デジタルマーケや動画コンテンツも活用し、顧客との深いエンゲージメントを築く必要があります。

3.明確なターゲットとコミュニティ形成:
誰に、どんな価値を提供したいのかを明確にし、そのターゲット層に響くストーリーテリングとコミュニティ作りを徹底すること。「On」がランナーコミュニティを大切にしているように、顧客がブランドの一員であると感じられるような場を提供することが、強固なアパレル ブランディングに繋がります。

4.サステナビリティと透明性:
環境意識の高まりは、アパレル業界において無視できないトレンドです。「On」のCyclonプログラムのように、サステナブルな素材や生産プロセスへの取り組みを積極的に行い、その情報を透明性をもって開示することは、新たな顧客層獲得に繋がるだけでなく、ブランドの信頼性を高めます。アパレル 商品企画の段階から、この視点を取り入れることが重要です。

5.生産背景へのこだわりと革新:
LightSpray?のような製造技術の革新は、将来的なアパレル グラフィックデザインの自由度を高めたり、パーソナライゼーションへの対応、少量多品種生産の可能性を広げます。中小ブランドであっても、生産パートナーとの連携を深め、より効率的で高品質な生産体制を追求することが、ビジネス競争力を高める鍵となります。

「On」の共同創業者CEO復帰は、彼らが「次の成長段階」へと進むために、創業時の情熱と革新性を再び前面に押し出す決意を表明したものです。この動きは、私たちアパレル業界に「ブランドの核をどこに置くべきか」「いかにして持続的な成長を遂げるか」という本質的な問いを投げかけています。
 
 

貴社のブランドは、どのような「体験」を顧客に提供したいですか?そして、その体験を具現化するために、どのようなデザインとビジネスモデルを構築していきますか?「On」の事例から学び、皆さんのビジネスがさらなる高みへと飛躍するきっかけとなることを願っています。

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